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風月無尽の無何有の郷

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2013/11/1 松風亭 雅山

<<< 三夕(さんせき)の歌、菊、・・・ >>>


綺麗で玲朧な月に叢雲の満月、・・・月も素敵ですが、月の出の前の夕暮れも、秋ならではのそこはかとない風情、浪漫があります。


淋しさは そのいろとしも なかりけり 真木立つ山の 秋の夕暮

心なき 身にもあはれは 知られけり 鴫立つ沢の 秋の夕暮

見わたせば 花も紅葉も なかりけり 浦の苫屋の 秋の夕暮


幽玄、侘び・寂び、・・・日本の美の独特の概念が、三夕の歌に代表されるような美意識の中から生まれてきたと言われてきております。

俳諧による美の創造も、この日本の美の伝統の上に脈々と連なったものであり、この日本の美の伝統の移入・再発見と言われております。


枯枝に 鴉のとまりけり 秋の暮

この道や 行く人なしに 秋の暮


深秋の隠れ里に帳を降ろす夕暮、・・・日本美の原風景の一つです、・・・


尚、三夕の歌の最初の寂蓮法師の歌は、やや観念的と言われますが、同じ寂蓮法師の次の歌は、 立ちのぼる霧の中の木々の湿り気が伝わるようなハイビジョン映像を凌駕するくらいのリアリティーを感じます。


村雨の 露もまだひぬ まきの葉に 霧立ちのぼる 秋の夕暮れ


さて、そろそろ菊匂う季節にもなりました


菊は、平安時代頃から観賞の習慣が始まったとされています。 中国から、封禅(ほうぜん)の祭祀にも地下水脈で繋がっているとも言われております高台に登って菊酒を飲み長寿を祝う秋の重陽の節句とともにもたらされ、 万葉集には登場しませんが、古今集くらいから盛んに歌にも詠まれるようになり、春の桜に対し、日本の秋を代表する花になっていったようです。 また、菊酒は神仙の飲み物ともされておりまして、神秘と浪漫をそそられます。


心あてに 折らばやをらむ 初霜の 置きまどはせる 白菊の花


三十六歌仙の一人 凡河内 躬恒の歌など、菊とともに思い浮かびます。


初霜には、まだ少し時期は早いですが、初霜と言えば、次の歌が最も好きです。


初霜に おきいでてみれば 白砂の 衣手さむき 月の影かな (道昭)


道昭は、7世紀の法相宗の僧の道昭(道紹、道照)ではなく、13世紀から14世紀にかけての天台宗の僧侶、歌人だと思います。


最後は、晩秋の乙女を詠んだ拙い一首で、秋の夜長に、筆を置きます。


雁渡し そぞろ寂しき 秋の暮れ 乙女の髪に 降り敷く紅葉




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